巻頭言(※筆者の所属・役職等は,執筆当時のものです)
「患者さんには愛を,職場には和を」
皆様に喜んでいただける病院づくりをめざして。(蒲谷 堯 南千住病院 院長)
「あいわ」発行にあたり,先ず南千住病院の紹介をさせて頂きます。南千住病院の前進は南千住クリニックでございますが,当時私は荒川区西尾久の東京女子医大第二病院で腎臓移植と人工腎臓の臨床研究をしておりました。しかし大学病院のような大きな組織では,自分の考えている医療はなかなか難しいと判断し,昭和51年に大学病院を飛び出し,自分の世界を作るために南千住クリニックを開設いたしました。当初は透析医療以外には一般医療は行っていませんでしたが,しかし透析患者さんにはいろいろな合併症がおきやすく,またそれが重症になりやすいために病床が必要となり,内科,外科は勿論のこと整形外科,循環器科,糖尿病科,泌尿器科等の多くの科を設置し現在の病院に到ったという訳です。現在では透析患者さん以外にも地域の多くの方々にご利用いただいております。「患者さんには愛を,職場には和を」を我々の医療理念として揚げ,医療法人名を愛和会とし,皆さんに喜んで頂けるような病院を作るために全力を尽くす覚悟でございます。ぜひ皆様には,ご指導とご鞭撻の程よろしくお願いいたします。今後この「あいわ」を通じ医療法人社団愛和会を広く皆様に知っていただき,そして皆様とのコミュニケーションがさらに深まることを念願しております。
(1号より)
クリニカルパスについて(飯田 富雄 南千住病院 副院長)
最近は多くの病院で,「医療の効率と質の向上」をはかり,「患者さんの満足と資源の効率的利用」を目指す手段としてクリニカルパスが導入されております。クリニカルパスとは,多職種からなる医療チームが実践する行動計画を時系列で描き出したものです。通常は,入院からの経過日数を横軸にとり,医療ケア項目(治療,検査,薬剤など)を縦軸にとった一覧表で,典型的な患者さんに対する標準的な医療・看護ケアを示したものとなります。これを作成すると,病気により大体の入院日数がわかるようになります。たとえば,痔やヘルニアの手術なら術後5日間,胃や大腸の手術は約15日間という具合で,実際にこの予定どおり退院される方もいらっしゃいます。ここで問題となるのは,当院では慢性腎不全をはじめとして,様々な慢性疾患を併発されている方が多く,クリニカルパスにのっとった治療が困難な場合が多いことです。そのため,クリニカルパスの導入がなかなか進まないのが現況ですが,問題点を認識した上で,当院の現状に適した,クリニカルパスのメリットを生かした方向で導入を進めていこうと考えています。
(2号より)
人に優しい医療(出月 康夫 南千住病院 名誉院長)
この10年の間に医療は大きく変ってきました。身体になるべく負担をかけずに病気を診断し,治療することが少しずつできるようになってきたのです。超音波検査やCTスキャン,MRI,柔らかくて細い内視鏡が普及して多くの病気が正確に診断できるようになりました。また内視鏡を使って消化管の早期がんや良性の疾患が大きな手術をしないでも治せるようになりました。私たちの病院でも胆石症や早期の胃がん,大腸がんなどの手術を腹腔鏡を使って手術しています。このような手術ではお腹の筋肉を切らないですみますので入院期間も短く,早期に社会復帰が出来ます。
このような人に優しい医療が可能になったのは,いろいろな技術が医療に応用され,新しい医療機器が開発されたからです。米国では小型で軽量化された人工腎臓が開発され,これを自宅に置いて毎晩2時間程度透析をすることによって,完全社会復帰が可能になっていると言います。医療に関する法律や制度の違いはありますが,わが国でもこのようなことが出来るようになる日が1日も早く来ることを期待しています。
(3号より)
電子カルテ導入に向けて(蒲谷 堯 南千住病院 院長)
今やITの普及は周知の如く目覚しいものがあります。ところが,皆様の健康を守るための医療に於いては,IT化は大変遅れております。医療の世界でのIT化のメリットと言えば,まず情報の共有が出来るようになることです。それは例えば複数の病院にかかった場合でも,今のようにいちいち紹介状がなくても,他の病院での治療内容を瞬時に閲覧することが可能となり,正確な情報のもとで治療が行えるようになるということです。また,患者様も自宅にいて自分の情報を見ることが出来るようになり,治療に役立てることも可能となります。その他,患者様の検査データをその場でグラフにしてお見せ出来たりと直接治療の面でも役立てることが出来たり,医療安全確保にも役立ったりと,その他まだまだ沢山のメリットが考えられますが,そのためにはまず全ての医療施設が電子カルテの導入をしなければなりません。厚生労働省では電子カルテ化を勧めようとしておりますが,診療報酬の抑制下では,その普及はなかなかはかどりません。現在ではまだ全国の病院の約2%にしか普及しておりません。そんな中で現在,当愛和会では他院に先駆けて平成16年中の電子カルテ導入に向けて準備中でございます。南千住病院,愛和クリニック,熊の前腎クリニックの愛和会3施設の患者様に少しでもお役に立つようなIT化が出来ればと考えております。
(4号より)
骨と関節のDecade(ディケイド)(原 徹也 元東京都立江原病院院長,昭和大学 医学部顧問)
日本整形外科学会ではこの10年間を骨と関節のディケイド(運動器の10年間と言う意味です)と名前をつけて健康推進の運動を展開しています。正常な年齢的変化が病気に進行しないように,肉体的にも,精神的にも,それなりの健康を長く保ち,寝たきりを予防し骨粗鬆症,骨折の発症,変形性関節症の進行などを予防することを目標とする運動です。また,近年さかんなスポーツ,ことに若年者のスポーツ障害に対しての指導も重点項目としてとりあげています。
南千住病院を御利用いただいている患者さんも平均年齢の高い方が多いことは事実ですが比較的軽症で御元気に活動なされている方,また背骨,関節の障害で充分な活動に制約のある方等,ひとりひとり病気の状態が異なります。
しかし,今より悪くならないように生活様式を工夫し,自宅でも出来る運動療法(リハビリ)を行い注意事項や指導内容をまもり,美しく年齢を重ね元気に楽しくすごせるようにと患者さんに心がけていただくように医師も一緒になって努力して行く医療を目指しております。
(5号より)
胃内視鏡検査とセデーション(渡辺 伸一郎 東京女子医大 教授)
当院では,楽に苦痛なく胃内視鏡検査を受けたいと思われる方にはセデーションを行っています。セデーションとは,鎮静処置とでも訳すのでしょうか,鎮静剤を使って内視鏡
挿入時の苦痛を取り除く処置のことです。のどの反射が強くて内視鏡が呑みにくい人,内視鏡を呑むことに強い不安感を抱いているような方には特に有益な方法で,実際には浅い眠りについた状態で,全く苦痛なく内視鏡検査を受けることができます。しかも,検査終了時にはこの鎮静剤を中和する薬剤を投与するので,眠気もほとんど残りません。
欧米ではこのセデーションなしの内視鏡検査など到底受け入れられるものではないとの考え方が大勢を占めていますが,わが国では内視鏡検査にこれを使用する頻度は極端に低いのが現状です。日本人が我慢強いのかもしれませんが,内視鏡医がセデーションを行わずに内視鏡検査をすることが腕の良い証拠と考える傾向にあるのでしょうか。あるいはまた,セデーションに対する正しい理解と経験が足りないのでしょうか。
ともかく,内視鏡検査を受ける患者さんの利益と安全のために最大限の努力をすることがわれわれの義務であることも忘れてはならないことでしょう。
当院スタッフにいつでもご相談ください。
(6号より)
日本人と乳癌(芳賀 駿介 東京女子医大 教授)
今や乳癌の発生率は女性の癌の第一位となり,もっとも気を付けなければならない病気です。このように増えている原因は生活の欧米化と言われています。すなはち,食事が肉食中心の油っこいものが好まれるようになったり,未婚女性の増加,今盛んに言われている少子化が大きな原因です。したがって,禁煙のような肺癌にならないための一次予防は通用しない病気です。しかし,乳癌は治りやすい癌の一つで,決して怖い病気ではありません。なぜなら,しこりの大きさが一円玉くらいで発見すれば,90%以上は治りますし,また乳房を取らずにすむものも多くあります。最近では,入院も必要ない乳癌も見つかるようになっています。月に一回,自分でしこりがないかどうか触れてみるだけで多くの乳癌は発見できます。当院では多くの患者さんが診察にみえ,手術を受けて元気になっています。これからも南千住病院が患者さんにお役に立てるよう微力ながらお手伝いさせていただいと思っています。何かありましたら怖がらず気楽にご相談ください。
(7号より)
新しい年を迎えて(蒲谷 堯 南千住病院 院長)
2005年,明けましておめでとうございます。昨年は国内でも台風や地震で大きな被害が出た年でしたが,12月26日にはマグニチュード9.0というスマトラ沖の超大地震が発生し,その津波により,およそ15万人とも言われる程の多くの犠牲者が出てしまいました。またイラクでは相変わらず自爆テロが続いております。今年こそは,大きな天災も無く,テロも無い穏やかな一年でありますことを祈るばかりでございます。
ところで,我々の医療法人社団愛和会では約1年半をかけて準備をしてまいりました電子カルテを,皆様のご協力のもと,昨年の11月12日に先ず南千住病院で導入いたしました。電子カルテ化をすることにより,業務の効率化や,医療ミスの減少等が期待され,またあらゆる形の医療連携に役立つことが考えられます。厚生労働省では01年に「保健医療分野の情報化に向けてのグランドデザイン」を発表し,その中では06年までに全国の400床以上の病院と全診療所のそれぞれ6割以上に普及させることを目標に掲げました。しかしながら,電子カルテの導入にかかる費用が高額なことや維持費もばかにならないために,なかなか普及していないのが現状です。厚生労働省の調べでは,04年3月末時点の導入率は,400床以上の病院で11.7%,診療所は2.6%,400床未満の病院では1.1%ということです。財政改革の名のもとに医療費の抑制策が続けられ,その中で質を良くしろとは所詮無理な話であり,特に400床未満の病院には全く補助金も出さないというやり方では,この状況は当然の結果と考えられます。医療や教育といった部門は社会的共通資本と言われます。その医療のIT化を推進するために,もっと国が積極的であるべきではないかと考えております。電子カルテを導入して約一ヵ月半が過ぎ,やっと少し落ち着いてきた感じがございます。1月中旬には,熊の前腎クリニックと愛和クリニックの両方に同時に導入し,これで愛和会全体が電子カルテにより連携されたことになります。これからは電子カルテの利点を生かして,如何に皆様の診療に役立てることが出来るかということを考えながら使っていきたいと考えております。
今年もどうぞ宜しくお願い申し上げます。
(8号より)
人工腎臓と人工心臓(城間 賢二 東邦大学客員教授 循環器専門医)
人工腎臓は朝鮮戦争のときに発症した急性腎不全の治療方法として飛躍的に進歩しました。現在,南千住病院で多数の患者さんに使用されている透析療法の始まりです。工学系の進歩とともに安定した治療法として人工臓器の中ではもっとも確立されたものの一つとなっています。血液を扱う臓器で苦労する点は血液が固まることです。ヘパリンの発見でそれが解消されました。その後,人工心肺に応用され,そして人工心臓への発展と繋がっていきます。人工心臓を人間に移植したのは,1969年のことでした。アメリカの外科医が心臓手術後の重症心不全の患者に器械のポンプを移植し,64時間,人工心臓で生かし続けました。このときの人工心臓の駆動装置は大型冷蔵庫ほどの大きさで,体外からチューブで胸の中に植え込んだ人工心臓をコントロールしていました。そして2001年,ついに完全置換型人工心臓が行われました。入浴も可能で,これまでの人工心臓とは完成度において格段に進歩したようです。ただし,コストが高いのが難点です。人工腎臓に関しても体内植え込み型の研究は進んでいるのですが,残念ながら実用化のめどはたっていません。医学の発展で将来実現するといいですね。
(9号より)
糖尿病治療は多種競技(植田 太郎 埼玉県清生会栗橋病院 副院長)
生活習慣病の代表格である糖尿病は,国民の6人に1人が罹患しているといわれています。糖尿病の怖さは発病から20年―30年の経過でゆっくり起こってくる網膜症や神経障害や腎症は勿論ですが,それよりも直接生命を脅かす心筋梗塞や脳血管障害は,罹病期間とは必ずしも関係なく起こってきますので,より重大な問題です。従来,心筋梗塞の三大危険因子は高血圧,高コレステロール血症,喫煙といわれてきましたが,最近のわが国の大規模調査では,高コレステロール血症に替わって糖尿病が上がっています。それでは何故糖尿病が脳・心血管患者の重要な危険因子となるのでしょうか。それは糖尿病患者が糖尿病だけでなく,高血圧や高中性脂肪血症,低HDコレステロール血症(糖尿病患者の特徴的な高脂血症パターン),および肥満など複数の危険因子を併せ持つからです。この場合,境界型(耐糖能障害)の段階でも危険性は高いのです。今日,これらの危険因子の重積する病態をメタボリックシンドロームと呼び,注意を喚起しています。糖尿病の治療は血糖コントロールだけではなく,これらの危険因子全般に目を向けねばならない多種競技なのです。
(10号より)
テイク・イット・イージー(西村 英樹 東京女子医大 東医療センター)
外来でよくきく質問に「糖尿病になると甘いものを食べちゃだめなんでしょ。」というのがあります。もちろん,これは大きな間違いで,極端に言えば食べたいもの何を食べてもいいのです。ただし条件があって,体格,生活環境に見合った食事量を守りましょう,ということなのです。糖尿病食は,なにも糖尿病に対する特別なものではなく,すべての人にとっての健康食です。生活指導を受けて何か窮屈に感じるのは,ついつい不健康な生活習慣に慣れてしまっているからで,逆に,糖尿病を健康な生活を取り戻せるチャンスと考えた方がいいのではないでしょうか。また,適当にガス抜きをするのも大切です。普段はきちんとやっていても,たまには羽目を外す,でもまた引き締められる。糖尿病のような慢性疾患とつきあう場合は,こういうやり方の方がいいのだと思います。だめだめばかりでは精神的に参ってしまいます。まずは必死になってがんばって血糖を目標値まで下げ,その後はデータをみながら,1週間に1度ぐらいは腹一杯食べてその後はまたがんばろう,それでいいのではないでしょうか。その方が気楽で長続きするのではと考えています。
(11号より)
新しい年を迎えて(蒲谷 堯 南千住病院 院長)
新年明けましておめでとうございます。昨年暮れからマンションやホテルの耐震性偽装問題が発覚し,また今年に入り早速,ライブドアの粉飾決算等の疑惑問題発覚と,まさに小泉改革の一つである規制改革のほころびとも考えられる事件が続発しております。今や規制改革により,どうもアメリカのような競争社会を目指し,勝ち組み,負け組みがはっきりして来る社会を作ろうとしているように思われます。まさに市場原理に任せるということでしょうか。
ところが現在政府は,その市場原理を国民の健康を守るべき医療にまで導入しようとしております。そのひとつは,いわゆる混合診療の導入をしようとする動きです。金持ちと貧乏人で医療内容に差をつけるような医療制度を作ろうとしております。そしてもうひとつは,利潤を追求するための組織である株式会社が病院経営に参入することが出来るようにしようとする動きです。この二つが可能になればまさにアメリカのようなとんでもない状態になり,WHOも世界一と評価している程の我が国の医療保険制度は崩壊してしまいます。日本の医療費は対GDP比の国際比較ではOECD加盟29カ国中20位くらいとかなり下位であるといわれております。すなわちコストをかけずに世界一の医療が行われているわけです。ところが,今年の4月にはまた大幅に診療報酬が抑制されることが決まりました。医療の安全が叫ばれる今日,相反する行為としか考えられません。現在行われている医療改革は財政面からのみの行動であり,今や医師不足,看護師不足は深刻で,医療提供体制の不備が叫ばれております。真の医療改革を真剣に考える時ではないでしょうか。
先日,お見舞いにある病院へ行き,その帰りに近くのホテルに立ち寄り,広いロビーのソファーでコーヒーを飲みながら,ふと気付いたことは,こんなに綺麗で広い立派な建物を使わせて頂いて,医療が出来たらなんとすばらしいことかと言うことです。そんなことは,医療費といえば抑制としか言われない我が国では夢のまた夢でしょうか。
(12号より)
高齢者福祉に対する理解を広げよう(高橋 雅足 中央大学 教授)
私は大学で一般教養として健康・スポ−ツ科学論という授業科目の中で健康に過ごす知識とそのための運動実践等を文系の学生に講義をしています。また最近,介護実習という科目を設けました。なぜ文系の学部でそのような科目が必要なのか,と疑問を持つ方もあると思います。数年前,私のゼミ学生の人数が自ら希望して老人病院でのボランティア活動を経験しました。ところが学生たちは高齢者介護の実態にショックを受け,うろたえるばかりでした。しかしそんな学生たちを非難はできません。かれらの反応は当然のことともいえます。現代の都会では家の広さの問題,核家族化等で高齢者を介護することや,人の死に立ち会う機会が少なくなっているからです。世代間の交流が少ない現代社会において,学生に社会体験の機会を与えることも教養教育の一つに値すると考え,介護実習を開講しています。全国ではまだこのような授業科目を設けている大学は多くはありませんが,徐々に増えています。多くの青年が実体験することにより,高齢者介護に対し理解を深め,その他の老人医療や福祉の問題にも関心の目を向けて欲しいと思います。
(13号より)
糖尿病治療の基本は食事と運動療法(高橋 良当 東京女子医大 助教授)
糖尿病治療の基本は食事と運動療法です。医師は食事や運動の指導を行いますが,実行するのは患者様自身です。誤った食習慣は糖尿病の発症や悪化につながり,その結果,網膜症や腎症や神経障害などの糖尿病性合併症をもつことになります。スナックやお菓子の誘惑,豊富な果物や飲酒習慣など,誤った食習慣の是正は決して容易ではありません。しかし,日本食は本来低脂肪,低カロリー,高線維食で,糖尿病食に近い内容です。この日本食を見直して,穀物や魚や野菜中心の食習慣に戻すことは糖尿病の食事療法を成功させ,動脈硬化を予防する近道だと考えます。
運動は加齢による足腰の衰えとともに困難になりがちですが,運動不足は筋力や運動機能を一層低下させて,悪循環となります。肥満や骨粗鬆症や骨折の予防には運動と食事療法が効果的です。最近の研究では,歩行運動だけでなく,屋内でのストレッチ体操も足腰の運動機能を高め,転倒防止や認知症(老人ぼけ)の予防に役立つことが知られています。天気の良い日は少なくとも30分以上は屋外で元気よく散歩したり,雨の日は屋内で手足の屈伸運動を行いましょう。
(14号より)
私の血圧はいくつが正解(日台 智明 東京女子医大 東医療センター)
血圧を高いままで放っておくと,心臓病や脳梗塞に罹りやすくなると言われています。
では,いくつぐらいの血圧であれば,そういう危険をさけることができるのでしょうか。テレビや雑誌でいろいろな意見を目にします。国際学会で提唱された基準に対しても批判があります。高名な研究者の間にも意見の食い違いがあります。つまり、参考となる数値はありますが,絶対の正解があるわけではありません。誰もが納得するのは,いつ測定しても血圧が180/120を超えているような患者さんは薬を飲んだ方が長生きできる,ということぐらいです。糖尿病,心臓病,腎障害など他にも病気がある患者さんと,高血圧だけの患者さんの目標は異なります。すでに何種類も血圧降下剤を服用している患者さんと,一種類しか服用していない患者さんでも違ってきます。太っている人とやせている人でも対応は異なります。マスコミに登場する先生方は,あなたの体のことを知っているわけではないので,説明が一般的になります。ですからマスコミや口コミの情報をもとに自己判断せず,あなたの主治医とよく相談してください。一人一人の病状にあった治療こそが,元気でお過ごしいただくのに必要なのです。
(15号より)
新しい年を迎えて(蒲谷 堯 南千住病院 院長)
皆様,新年明けましておめでとうございます。今年の正月は,暮れから日本中を襲ったノロウイルス感染のために,大変慌しく,落ち着く暇がありませんでした。なんだか今年も厳しい一年になりそうな予感がいたします。
ところでこのところ,たび重なる診療報酬のマイナス改定が行われ,皆様に使われる医療費がどんどん抑制され続けております。昨年には更に3.6%の大幅なマイナス改定が行われ,またあわせて医療制度改革が行われたことは皆様はもうすでにご承知のことと思います。医療制度改革の主な内容は現在38万床あると言われる療養型病床を15万床に減らすというものです。そのために療養型病床では病院が経済的に成り立たないような診療報酬が設定されました。また今後も医療費抑制のために,現在約90万床あると言われる一般病床を約45万床に減少することが考えられております。ということは,入院日数を現在の半分にして,長期療養は在宅でと言うことになるわけですが,果たして国民にその準備が出来るでしょうか。すでに核家族化が進み,また一人暮らしの多い現状を見ますと,とても大変な状況が予想されます。
本来,医療や教育は社会的共通資本といわれ,最後まで守られなければならない大切なものですが,政治家や官僚は自分たちが失敗し作ってしまった膨大な借金のために,財政改革を迫られ,先ずしなければならないはずの公務員改革や税金の無駄遣いの是正には全くと言って良いほどに手をつけずに,真っ先に社会保障費を抑制しようとしているわけです。皆様もご存知のように,日本の医療は世界一の評価を受けておりますが,医療費は先進国中最下位と言われております。また,ちなみに日本の学校教育に使われる文教費もOECD加盟30ヶ国中最下位と言われております。当然,最近のように教育に色々な問題が起きてきても不思議はありません。毎日のように報道されている政治家や官僚の税金の無駄遣いは目にあまるものがございます。役人の天下りなどを含めた税金の無駄遣いは10兆円にも及ぶとも言われております。今や我が国はとんでもない方向に進もうとしているような気がいたします。幸い今年は選挙のでもございます,ぜひ皆様方には声を出し,立ち上がっていただきたいと願っております。
(16号より)
脳梗塞の話(松村 美由起 東京女子医大 講師)
脳梗塞は脳の血管がつまるために脳細胞の一部が壊れる病気です。原因により脳血栓と脳塞栓に分かれます。脳血栓は,動脈硬化により脳の血管内腔が狭くなり閉塞する状態で,脳塞栓は心臓や心臓に近い太い血管にできた血栓がそこからはがれて飛び,脳の血管に詰まってしまう状態です。動脈硬化の危険因子として,高血圧,高脂血症,糖尿病などが挙げられ,脳塞栓では心臓弁膜症や不整脈などが原因となります。
脳梗塞の症状は,起こる部位によって異なり,ある部位では手足の力が入らなくなり,別の部位では呂律がまわらなくなります。完全に梗塞になった部位は再生できませんが,発症早期の場合,梗塞に至らない細胞もあります。従って,できるだけ早く病院を受診し治療を開始することで梗塞の範囲を狭くして後遺症をより軽くすることができます。より早期の受診をおすすめします。また,麻痺などの症状が数分で回復してしまうことがあります。これは一過性脳虚血発作といい,脳梗塞の前兆でこの段階で治療を開始すれば,脳梗塞を予防することができますので症状がなくなっても病院を受診してください。
また,脳梗塞の予防には,その危険因子を発見して治療することが大切です。そのためには定期的な検診とともに頚動脈エコーや頭部CT,MRIなど画像検査を行うことをお勧めします。
もし,脳梗塞をおこしてしまったら,リハビリで機能回復を図るとともに,再発予防が大切になります。再発予防のためには,抗血小板剤や抗凝固剤など血液をさらさらにする薬を飲みます。同時に脳梗塞の原因となった高血圧,高脂血症や糖尿病,心臓疾患の治療も大切になります。予防薬は飲んでいても症状に変わりはありませんが,中断すればまた梗塞を再発してしまいます。胃腸からの出血などの副作用がでない限りきちんと服用してください。
お分かりにならないことやご心配の際にはいつでもご相談ください。
(17号より)
LUTS(下部尿路症状)てなに?(中澤 速和 東京女子医科大学 東医療センター 泌尿器科)
今回は泌尿器疾患の中で最も頻度の高い排尿の異常について話します。
高齢社会を迎え,排尿障害で悩む人々がますます増加しています。排尿障害といっても,いろいろな症状があり,様々な疾患が原因となっています。「トイレが近い」「夜中にトイレによく起きる」「おしっこがでにくい」「尿が我慢できない」「くしゃみをすると尿が漏れてしまう」「尿の勢いがない」など,なんらかの排尿異常のあるひとは全国で4000万人を超えるといわれています。実に3人に一人が膀胱・尿道(男性では前立腺も含む)の正常な働きが障害され,直接いのちに関わることは少ないのですが,日常生活で困っている人も多いのが現状です。
最近では,このような頻尿,夜間頻尿,尿意切迫,残尿感,排尿困難,尿失禁,など排尿に伴う異常をひとまとめにして下部尿路症状Lower Urinary Tract Symptoms; LUTSと呼んでいます。以前は症状をきたす原疾患の鑑別に重点がおかれていましたが, 下部尿路症状をきたす病態を下部尿路機能障害Lower Urinary Tract Dysfunction; LUTDと総称し,過活動膀胱,低活動膀胱,前立腺肥大症,腹圧性尿失禁,に分類しています。病態が解明され症状を改善する薬物を主体に治療が行われています。
排尿機能学会のアンケート調査では40歳以上の半数以上が頻尿(8回以上),夜間頻尿(1回以上)を有しており,尿意切迫感を訴える場合,過活動膀胱 Over active bladder; OABと診断します。治療として抗コリン薬の有用性が証明され,最近,新しい薬があいついで発売されました。その結果,メーカーの宣伝効果もありOABという病名も有名になりました。いっぽう低活動膀胱ではコリン作動薬とα受容体遮断薬が用いられますが,残尿が多い場合,自己導尿が行われます。高齢男性で多い病態はもちろん前立腺肥大症ですが,過活動膀胱の合併も見られます。前立腺肥大症の症状改善にはα1受容体遮断薬が最も有効です。肥大が高度な場合,手術治療(経尿道的切徐術)が行われます。腹圧性尿失禁は骨盤底筋の機能異常で,軽い場合β刺激薬の投与や骨盤底筋訓練で改善しますが,治癒的治療としてはTVTやTOTといった局所麻酔で行われる尿道吊り上げ手術が非常に有効です。
排尿障害は加齢に伴う要素も強く,歳だからしょうがないとあきらめている人も多いのですが,最近は治療法も進歩してきました。高齢者のQOLの改善に少しでも役立てればと思っています。
(18号より)