レントゲン(南千住病院 放射線科)
W.C.レントゲン(ドイツの実験物理学者でノーベル賞受賞者)は,クルックス管(真空放電管)の実験を積み重ねていました。ある日のこと,黒い厚紙で覆ったクルックス管に高い電圧をかける度に,たまたま近くに置いてあった蛍光物質はクルックス管から発生する目に見えない摩・訶・不・思・議な光線で発光します。OH! 驚き,桃の木,山椒の木,時は1895年の出来事です。この不思議な光線を彼はX線と命名。X線発見からまもなく医学に応用されます。・・・何しろ「からだ」に大きい傷をつけずに「からだ」の中のありさまを見ることができるようになったのですから。
(2号より)
放射線被ばくについて
「放射能」とか「放射線」のイメージは,危険なもの,こわいもの,有害なもの,と思い描く人が少なくないと思います。過去には,チェルノブイリ原子炉事故,JOCの臨界事故など高いレベルの放射線による重い障害が引き起こされました。このような事件,事故が背景にあり「恐怖の記憶」として心に焼き付いていると思います。上に述べたように,放射線の高い線量での障害に関する印象が強いためか,どんなに微量であっても危険であると思い込んでしまいます。実際は放射線の影響は放射線の量によって大きく違ってきます。私たちは,宇宙線,大地,食品等を介して自然放射線を絶えず被ばくしており,医学的ないろいろな調査をみても自然放射線の影響(発ガンなど)は全く確認されていない。また,一回のX 線検査(胸部写真)で患者さんが受ける被ばくは,自然放射線から一年間に受ける被ばくと同程度であり,X線検査の線量は人体に影響を及ぼすレベルよりはるかに低いので,極度に心配する必要はありません。
(3号より)
X線原像
人体に入射されたX線は,人体をつかさどる細胞組織・臓器などに吸収されたり,散乱しながら体の外に射出します。
その吸収や散乱の程度は,人体組織がもついろいろな原子や密度や厚さによって異なってきます。このように組織が異なると入射X線量が同じであっても射出X線量に差が生じてきます。従って人体を射出したX線量は,その人体のしくみに応じたX線原像となります。
胸部を例にとりますと,肺は密度や原子番号の低い空気を含むのでX線をよく透過し,肋骨や鎖骨などの骨は原子番号の高いカルシウムなどからなるので透過性は不良になります。すなわちX線写真では,肺は黒く,骨は白く,心臓や血管は中間の濃度に表現されます。また同じ肺でも,上肺野と下肺野には濃度差が生じます。これは,筋肉や乳房などの厚さがあるためです。
(4号より)
CT(Computer tomography:コンピュータ断層法)の開発
ある研究者らの先駆的研究を参考にイギリスのハンスフィールドは,文明の利器,数学とコンピュータ技術とを巧みに結びつけ画期的なCTを開発しました。ハンスフィールドはEMI社の研究員で電子工学者でありましたが,CTみたいなものを考えついたのは1967年頃であったようです。それから数年後には頭部用CT装置の原型が完成します。ハンスフィールドはEMI社のすぐそばにある病院に研究協力をお願いしCTの原型を運び込んで協力者の放射線科医アンブローズ(超音波を使って脳の画像をつくる試みをしていたがハンスフィールドの方法に興味をもつ)とともに何十例かの頭部CT撮影を試みました。その臨床試験の成果が1972年にイギリス放射線学会で発表されます。この成果は世界にあっという間に広がっていきました。CTの出現は20世紀の医学にとって革命的だったのです。
(5号より)
造影剤
造影検査では,X線が透過しにくい検査薬やX線が透過しやすい検査薬を服用したり,注射したりします。これは,目標とする臓器と周囲組織とのX線透過率を変化させることにより臓器の形状,機能,病的な変化などを詳しく描出することにあります。
この検査薬は影を造る薬,あるいはコントラスト(明るさの比)を付け加える薬ということでX線造影剤(X-ray contrast medium)と呼ばれています。
造影剤を用いたX線検査法の試みは,レントゲンがX線を発見した翌年には始められ1910年には今日も使われている硫酸バリウムを消化管造影に使用し,また1918年には血管造影にヨウ化ナトリウムといった造影剤が臨床応用されています。その後,幾多の変遷を経て現在では飛躍的に安全性と造影能を向上させています。
また現在は多くの画像診断が行われ,X線造影剤のほかにX線を使用しないMRI検査や超音波検査においても造影剤が使われています。
(6号より)
X線管球
X線検査で使われるX線の発生源は,X線管球という一種の真空管です。X線管球に電流を通すことにより陰極(フィラメント)から熱電子が放出されます。これに高い電圧をかけると,電子は加速し対極にある陽極側に引き寄せられタングステン陽極というターゲットに衝突します。衝突した電子は,弾性衝突(衝突の前後で運動エネルギーの和が変わらない衝突)と非弾性衝突のいずれかが起こります。弾性衝突は原子の中核をなす粒子いわゆる原子核の周辺の電磁場と電子の電磁場との相互作用によって,電子は弾性的にはね飛ばされてしまい結果として,電子のエネルギーは熱に変わってしまいます。電子とターゲットの衝突の約99%はこの弾性衝突です一方の非弾性衝突は電子が原子核の近くを通過すると電子は原子核に引き寄せられて進行方向が変わり電子の運動エネルギーの一部を失います。この失われたエネルギーがX線となってX線管球から放射されます。電子とターゲットの衝突の約1%が非弾性衝突です。
(7号より)
胸部単純X線検査
胸部単純X線撮影は,一世紀にわたって築き上げられてきた検査法の一つです。臨床の場面では必須の検査であり健康診断や検診でも重要な役割を果たしています。
胸部写真は,その構造の多くが肺内に存在する肺胞内の空気で満たされている特殊な領域でありそこに骨,心臓,大血管,筋肉,軟部組織などの像が加わり一枚の写真からじつにさまざまなことがわかります。撮影方法は立った状態で吸気時の正面像(X線束が背から入射し腹より射出する後前方向postoanterior view ,PA view)が標準ですが,とくに肺に関しては正面像では肋骨や心臓や横隔膜などと重なる部分が多く肺そのものの異常を診るのに障害になり検討しにくい部分が生じてきます。この障害を補うために胸部疾患を有する患者さんに対し側面像を追加して正面像とあわせて撮影することもあります。
また,側面像は心臓や大血管の解剖的な評価や病巣の位置の把握にも有用です。
(8号より)
腹部単純X線検査
超音波検査,CT検査などの普及に伴い,腹部画像診断法は変化していますが,腹部に症状のある患者さんは,依然として腹部画像診断法のもっとも基本である腹部単純X線検査が最初に行われています。この腹部単純X線検査は,侵襲が少なく簡便に腹部全体像を概観でき,異常ガス像,異常石灰化影,腹腔内液体貯留,異常軟部腫瘤,正常臓器輪郭の消失,異物などを見いだすことができます。これらの異常所見から多くの場合はどのような検査を次に行うべきかを適確な指標として重要視されています。
(9号より)
尿路結石の単純X線写真
尿路結石には,シュウ酸カルシウム結石,リン酸カルシウム結石,リン酸アンモニウムマグネシウム結石,尿酸結石,シスチン結石,キサンチン結石などがあります。
シュウ酸カルシウム結石やリン酸カルシウム結石などのカルシウム含有結石のものはX線非透過性であるために単純X線写真でも石灰化陰影として描出でき,尿路結石の90%はX線非透過性であるため単純X線写真にて見つけられることが多いようです。尿酸を主成分とする尿酸結石はX線透過性であるために単純X線写真では写らず診断は困難です。また,単純X線写真ではときに骨や消化管との重なりでカルシウム含有結石でも写らないこともあります。いずれも結石が尿路系にあることを確かめるためには,造影X線検査やCT検査が必要となります。
(10号より)
骨の老化と骨塩定量測定
骨塩量は,男女とも20歳代くらいまでに最大値に達し,40歳くらいまではその値は保たれ,それ以降は生理的に徐々に減少していきます。骨塩量の減少のパターンには性差があります。女性では閉経を機に急激な減少が起こり,その後ゆるやかな減少にかわります。男性では急激な減少を示す時期はなく加齢とともにゆるやかに減少します。骨は構築上,海綿骨と皮質骨に大別されます。骨量の減少は両者ともに起こりますが海綿骨の骨代謝は,皮質骨に比べて早いので皮質骨より先に骨塩量の減少が起こります。骨格は,部位によって海綿骨の占める割合に違いがあり,踵骨では95%,腰椎では65%,大腿骨頸部では50%,前腕骨の先端部では45%を占めています。骨塩定量測定は,したがってこれらの骨部を中心にエックス線や超音波,CTなどを使って検査をおこなっています。
(11号より)
硫酸バリウム
硫酸バリウムは,X線に対する高い吸収率,水に難溶性,化学的安定,人体に無害など多くの長所をもっています。硫酸バリウムX線造影剤は,主剤の硫酸バリウムと添加剤の分散剤,消泡剤,防腐剤,甘味剤,香料などから構成されています。
造影剤の性能は硫酸バリウム粒子のサイズや分散剤の種類などによって左右され,また粒子の形やサイズは製造の条件によって管理されています。
最近,胃の造影検査に用いる硫酸バリウム造影剤は,バリウム濃度200〜240w/v%の高濃度の製剤が多く使われる傾向にあります。従来の硫酸バリウムに比べ高濃度硫酸バリウムは,高濃度・高密度によって胃小区間溝など粘膜の凹凸の描出に適しており精度の高い画像が得られています。
高濃度硫酸バリウムの「高濃度」は具体的な定義はありませんが,一般的に200w/v%と考えられます。硫酸バリウム造影剤の濃度を示す単位は重量対容量パーセント(w/v%)を用います。
(12号より)
造影補助剤(発泡剤)
1905年,Holzknecht(ホルツクネヒト,オーストリアの放射線学者)らによって使用された炭酸ガスは,現在では胃・十二指腸造影検査に造影補助剤としての発泡剤(炭酸ガス)は欠くことのできないものとして広く用いられています。
この発泡剤は,胃内で炭酸ガスを発生させることで胃・十二指腸の内壁を伸展させ硫酸バリウム造影剤を胃・十二指腸の粘膜に付着させ内腔範囲を広くして粘膜微細病変を描出することを目的としたものです。
発泡剤の性状は,炭酸水素ナトリウムならびに酒石酸に添加物としてシリコン樹脂や香料を含有したもので顆粒剤,錠剤,粉末などの形をかたどったものがあります。
検査終了後の発泡剤は,おくび,げっぷ,として口腔より排泄されるか,消化管より吸収され肺胞内でおこなわれるガス交換によって体外に排泄されます。
(13号より)
脂肪肝のCT画像
脂肪肝とは,病理組織像で肝小葉内の30%以上の肝細胞に脂肪沈着が認められる状態と言われています。蓄積されている脂質の大部分は中性脂肪であり,肝細胞内に蓄積されます。典型的なものは脂肪沈着が肝臓全体に及ぶもの,区域性に沈着するもの,限局性に沈着するものもあります。CT画像の特徴として,肝組織のX線吸収値の程度が正常な肝にくらべて小さくなり,その程度は脂肪沈着が進むにつれてX線吸収値は低下します。正常の肝臓は脾臓および血液よりも高いX線吸収値なので,脾臓は肝臓の脂肪沈着の有無をみる際の簡単な指標となります。また,脂肪沈着が高度になると肝実質と脈管(門脈・肝静脈)のX線吸収値の逆転が起こり肝実質の濃度は著明に低下(画面上には肝臓は黒く写る)し,脈管の構造が相対的に高い濃度(画面上には脈管は白く写る)として描出されます。
(14号より)
胆石症(結石症)のCT
胆石症は,胆嚢・胆管の胆道系において胆汁成分から結石が形成される疾患です。結石の保有率は成人の10%が保有しており,そのなかでまったく症状を訴えず時を過ごしてしまう無症状結石は半数以上を占めています。結石にはコレステロール結石,ビリルビン結石,それらの混合石など千差万別です。結石の所在によって胆嚢結石,胆管結石,肝内胆管結石と称されます。画像診断では,一般に結石の検出率が95%を超える超音波検査が検査としては最初に行われます。しかし,結石が疑われるにもかかわらず超音波検査でもはっきりしない場合にはCT検査の適用となることもあります。CT画像では,結石のカルシウム含量によって異なった像を示し,全体が石灰化濃度に描出されるものや胆汁と等吸収で描出されないもの,胆汁より低吸収を示すものまでさまざまです。
(15号より)
肝のう胞のCT画像
肝のう胞は,胎生期に肝内胆管が形成される過程で,胆管上皮細胞(内腔の表面などをおおう細胞層)の一部が遺残することによって生じる先天性の肝疾患と考えられています。自覚症状は乏しく検診などで偶然に発見されることが多いようです。CT画像では,球形あるいはそれに近い腫瘤で,大きさは数ミリから数十ミリとさまざまで,壁は平滑で薄く内部濃度が一様で水と同じかそれに近いCTの数値を示します。径が小さいと正常肝と重なり合って境界がやや不鮮明になったり,CTの数値が高めになったりすることがあり,超音波検査を含んだ総合画像診断が必要となります。
(16号より)
放射能とベクレル
1896年にフランスのA.H.ベクレルは,ウランがひとりでに,光とは違う何か特殊なものを放出することを発見しました。同時代に研究していた同国のキュリー夫人(M.Curie)がこの現象を放射能と名づけ,さらなる研究を進め,放射能を示す新しい元素を2種類ほど発見しました。その元素をポロニウム,ラジウムと命名し,それ以来,放射能の利用の道が開かれていきました。1930年代にはその原子核の分裂反応が発見され,時を移さず原子力エネルギー資源としての利用が可能になりました。
この種の放射線は,一般には電離作用(原子から電子を切り離し,結果として原子にプラス電気の性質を与えるといった作用)をおこすので電離性放射線と呼ばれています。一方,放射能とは原子核壊変(原子核が自然にほかの原子核に変わったりエネルギー状態を変えたりするときに起きる現象)を行い,放射線を放出する能力をもつ,この能力を放射能と呼びます。放射能の単位としてキュリー(Ci)がありましたが,1975年に新しい単位としてベクレル(Bq)とすることが国際的に承認されました。
(17号より)
自然放射線
太陽系の一惑星である地球は,地球が生まれた時から岩,砂,土などの中にラジウム,カリウム,トリウムなどの放射性物質が含まれていて,これらは絶え間なく放射線を出しています。野菜や穀物などは土の中から栄養成分を吸収し成長しますが,この成分には土に含まれていたいろいろな放射性物質もわずかながら含有されます。これらの物をわしたちは食することによって体内に放射性物質が入り体内の臓器に放射線を受けます。空気中ではラドンなど気体状の放射性物質がまじっていて,呼吸によって肺に取り込まれ,体の内側から放射線を受けています。また,空からは宇宙空間に存在する放射線が地球大気に入射してできる放射線いわゆる宇宙線と呼ばれる放射線も地上に降り注いでいます。それからも放射線を受けています。このように私たちは,さまざまな放射線や放射性物質の中で暮らしており私たちにとって自然放射線は,はなはだ身近な存在と言えます。
(18号より)